検索窓にキーワードを打ち込む代わりに、ChatGPTやPerplexityに「おすすめを教えて」と話しかける。この数年で、そんな情報収集の仕方をする人が明らかに増えてきました。
プロダクト選定や比較検討の場面でも同じです。以前なら比較サイトを何ページも読み比べていた人が、今はAIチャットに要点だけをまとめさせてから、気になった1〜2件のリンクだけを開く、という行動を取るようになっています。
皆さんのチームでも、流入元の正しい見方を毎週チェックしているはずです。検索・広告・SNS・メールという見慣れた内訳の中に、最近どうも説明のつかない「直接」流入が紛れ込んでいないでしょうか。
その正体の一部は、実は生成AIのチャット画面からのアクセスかもしれません。AIチャット経由の流入は、既存の分類ロジックの網目をすり抜けやすい、新しい種類のトラフィックだからです。
この記事では、AI検索時代に生まれつつある流入元の性質と、それを見えるようにするための実務上の工夫を整理します。派手な数字を並べる記事ではなく、仕組みを理解して手を動かせるようになることを目指します。
検索窓を経由しない情報収集が増えている
これまでのウェブ解析は、訪問者が検索エンジンや広告のリンクを踏んでサイトに来るという前提の上に組み立てられてきました。リファラー(訪問前にどのページにいたかを示す情報)を見れば、どの経路から来たかがおおむね分かる、という前提です。
ところが、ChatGPTのようなAIチャットに質問し、その回答の中で紹介されたリンクをクリックしてサイトに来る、という経路が新たに増えています。これは検索エンジンの結果一覧をクリックする行動とよく似ていますが、仕組みはまったく別物です。
検索エンジンなら、訪問者は複数の候補を見比べてから1つを選びます。一方でAIチャットは、いくつかの候補を要約し、時には1つだけを名指しで薦めます。
訪問者が比較検討をAIに委ねてから来訪するという点で、意思決定の重心がサイトの外側に移っているのです。
プロダクトマネージャーやインディーハッカーの立場からすると、これは見過ごせない変化です。従来なら自社のLPやコンテンツが比較検討の主戦場でしたが、その主戦場の一部が、自社の管理下にないAIチャットの回答画面へと移りつつあるからです。
自分が運営するプロダクトについて、試しにAIチャットへ「〇〇のようなツールでおすすめは」と尋ねてみると、意外な発見があるかもしれません。自社が候補に挙がるかどうか以前に、そもそもどんな基準で候補が選ばれているのかを知ることが、最初の一歩になります。
この変化に名前がついています。GEO(Generative Engine Optimization)は、生成AIの回答内で自社の情報が引用されやすいようにコンテンツを整える取り組みを指す言葉です。
近い言葉にAEO(Answer Engine Optimization)があり、検索結果の強調スニペットやAIによる要約など、質問に直接答える表示枠に向けた最適化を指すのに使われます。
両者は重なり合う部分も多く、厳密な線引きよりも、読者ではなくAIが情報を仲介する経路が増えたという現象そのものを押さえておくほうが実務では役に立ちます。呼び方がどうであれ、やるべき観測は変わらないからです。
コンテンツ戦略への跳ね返り
GEOやAEOという言葉が指す実務は、実のところそれほど奇抜なものではありません。質問に対して曖昧にぼかさず、事実を明確な文章で答える、という工夫の積み重ねです。
根拠となる一次情報を明示し、ページの中に問いと答えの対応がはっきり分かる構成を作る。地道ですが、効果が実感しやすい工夫です。
これは検索エンジン向けのSEOで長年言われてきた分かりやすさの延長線上にあるとも言えます。読者にとって読みやすい文章は、AIにとっても要約しやすい文章である場合が多いという理屈です。
ただし注意したいのは、AIの回答にどう引用されるかを完全にコントロールする手段は、今のところ存在しないということです。コンテンツを整えることはできても、引用を保証することはできません。
だからこそ、発信側の工夫と同じくらい、実際にどこから来訪が発生しているかを観測する力が重要になります。
実務レベルでは、疑問と回答の対応をFAQ形式で明示したり、ページの要点が伝わりやすい見出し構成にしたりする工夫が、引用されやすさにつながると考えられています。ただし、これらはあくまで確率を上げる工夫であり、引用を確約するものではない点は繰り返し強調しておきます。
「見えない」流入はどこに消えるのか
AIチャット経由の訪問がやっかいなのは、リファラーの扱いがサービスやアプリの実装によってまちまちな点です。ブラウザやアプリの実装次第で、リファラー情報が丸ごと欠落し、結果として直接流入に紛れ込むことがあります。
これは目新しい問題ではありません。ウェブ解析の世界には昔からダークトラフィックという呼び名があり、リファラーが欠落したせいで本来の経路が分からなくなった流入を指してきました。
メールアプリやチャットアプリ内のリンク、HTTPSからHTTPへの遷移など、原因はいくつも知られています。
AIチャット経由の流入は、このダークトラフィック問題の新しい供給源だと捉えると理解しやすくなります。原因になり得るものを整理すると、次のようなパターンが挙げられます。
- チャットアプリ内蔵のブラウザ(インアプリブラウザ)がリファラーを送らない設定になっている
- モバイルアプリ内でリンクを開いた場合、通常のブラウザ遷移とは異なる情報しか渡らない
- 短縮URLや中継ページを挟むことで、最終的なリファラーが変わってしまう
厄介なのは、この手の流入が量として無視できない水準に育ちつつあることです。正確な割合は業種やサイトによって大きく異なるため、この記事では特定の数字を主張しません。
ただ、直接流入の内訳を疑ってみる価値がある、ということは多くの現場で共有され始めている実感です。
RevOpsの視点で見ると、これは地味に痛い問題でもあります。営業やマーケの投資判断はどのチャネルが成果を生んでいるかという前提の上に成り立っているため、内訳が曖昧なチャネルが増えるほど、意思決定の土台がぐらつくからです。
流入元分類にAIチャットの気配を組み込む
打てる対策のひとつは、リファラーのホスト名にAIチャットサービスのドメインが含まれていないかを継続的にチェックし、分類ルールに反映していくことです。UTMパラメータの正しい付け方で触れたように、流入元の分類はキャンペーンタグと参照元ホストの組み合わせで成り立っています。
ただし、ここで注意したいのは、AIチャットの回答にマーケター側からUTMを仕込むことはできないという制約です。広告や自社発信のリンクとは違い、AIが生成する引用リンクの形式は完全にサービス側の裁量にあります。
つまり、能動的にタグ付けする従来のやり方は使えず、受け身でホスト名を見分けるしかありません。
具体的にどのようなホスト名が候補になるか、代表的なサービス名を挙げると次のようになります。
- ChatGPT(chatgpt.com、chat.openai.com など)
- Perplexity(perplexity.ai)
- Gemini(gemini.google.com)
- Copilot(copilot.microsoft.com)
もちろんこの一覧がすべてではありません。新しいAIチャットサービスが登場するたびに、リストは更新し続ける必要があります。
流入元の性質を整理すると、次のように違いが浮かび上がります。
| 流入元 | リファラーの安定性 | タグ付けの主導権 | 想定される訪問意図 |
|---|---|---|---|
| 検索エンジン | 比較的安定 | 自社(構造化データ等) | 比較検討の途中 |
| 広告 | 安定(UTM併用) | 自社(完全) | クリック直後で温度感が高い |
| AIチャット | 不安定・欠落しやすい | AI側(関与不可) | 要約・推薦を経た後の来訪 |
| SNS | サービス依存 | 自社(部分的) | 拡散・偶然の接触 |
この表からも分かる通り、AIチャット経由の訪問はタグ付けの主導権を握れないという一点で、他の流入元と性質が異なります。だからこそ、リファラーのホスト名で機械的に見分ける仕組みを継続的に更新していく地道な運用が欠かせません。
Stride では流入元の分類ロジックを一箇所にまとめ、ホスト名の追加だけで新しいサービスに対応できるように設計しています。AIチャット関連のホストが増えるたびに手作業で分類ルールを書き足す運用は、多くの解析ツールに共通する地味な宿題だと言えるでしょう。
コンバージョンへの影響を仮の数字で考える
AIチャット経由の訪問者は、コンバージョン率が高くなるのか低くなるのか。これは業種やサービスの性質に強く依存するため、断定はできません。
ここでは考え方を掴むための仮の例で説明します(数値はすべて説明用の仮定です)。
かりに月間10万PVのサイトで、1000件が直接流入に分類され、そのうち200件が実はAIチャット経由だったとします。この200件のコンバージョン率が仮に5%だとすると、10件の成果がずっと直接流入の成果として計上され続けることになります。
この10件という数字自体に意味はありません。重要なのは、分類が曖昧なままだと、施策の評価がゆがみ続けるという構造です。
AIチャット経由の流入を見分けられれば、この10件がどのチャネルの成果なのかを正しく切り分けられます。
もう一つ仮の例を挙げると、AIチャット経由の訪問者は要約を読んでからサイトに来るぶん、直帰率が低く出る、という仮説も立てられます。ただしこれもサイトの性質次第で逆になり得るため、仮説として持ちつつ、自社データで確かめる姿勢が欠かせません。
こうした検証を怠ると、広告費の配分や営業リソースの投下先を決めるアトリビューションの重みづけそのものが、実態とずれたまま固定化されてしまいます。RevOpsやプロダクトマーケティングの立場では、このずれを早めに見つけられるかどうかが、地味だが効いてくる差になるはずです。
見分けがついた後にやるべきことは、N1分析とはで紹介した一人ひとりの行動を追う視点です。AIチャットから来た訪問者が、検索から来た訪問者と比べてどのページを見て、どこで離脱するのかを実際の行動ログで確認します。
集計上の推測ではなく、個別の軌跡を見て初めて、AIチャット経由の訪問者に固有の傾向があるかどうかが分かってきます。
アンケートという補助線を引く
リファラーだけに頼った推定には限界があります。ホスト名で機械的に見分けられるのはあくまで一部で、AIチャット側の実装が変われば、その見分け方自体もすぐに古びてしまうからです。
ここで役に立つのが、訪問者に直接尋ねてしまうという、身も蓋もないほど単純な方法です。当社をどこで知りましたか、という一問だけのアンケートを、申し込み完了後の画面などに軽く出す運用は、昔から定番のやり方として知られています。
選択肢にAIチャット(ChatGPT、Perplexityなど)を一つ加えておくだけで、リファラーでは拾いきれない実態を補完できます。回答は集計データとは別の角度からの裏取りとして扱い、両者が近い傾向を示しているかを確認するのが健全な使い方です。
数値化しにくい部分を無理に推定し続けるより、分からない部分は本人に聞くという発想の切り替えが、地味ながら効果的な場面は少なくありません。アンケートという手段自体は目新しくなくても、聞くべき質問が変わってきているということです。
回答数が十分に集まるまでは時間がかかりますが、リファラー由来の推定と回答の傾向がおおむね一致していれば、その推定にはある程度の裏付けがあると判断できます。逆に大きくずれているなら、分類ロジックのどこかを見直すサインだと捉えられます。
導入までの実務ステップ
ここまでの内容を踏まえると、着手すべきことは意外とシンプルです。大がかりな新規ツール導入というより、既存の運用に一手間を加える話に近いといえます。
- 主要なAIチャットサービスのドメインを洗い出し、リファラーとして現れるものをリスト化する
- 直接流入の内訳を定期的に見直し、該当ホストが混ざっていないか確認する
- 見分けがついた流入について、コンバージョン率や滞在時間を他チャネルと比較する
- 差分が見えたら、アトリビューションの実務の考え方に沿って、評価の重みづけを見直す
これらは一度やって終わりの作業ではありません。AIチャットサービスは今後も増減し、リファラーの扱いも変わり続けるはずだからです。
ブラウザ側の仕様変更で、これまで拾えていたリファラーが急に欠落するようになる可能性も十分にあります。
四半期に一度でも直接流入の中身を疑ってみるという習慣を持てるかどうかが、地味だが効く差になります。
小さなチームであるほど、この習慣化は後回しにされがちです。ですが、流入元の内訳を疑う癖さえ身についていれば、専用のツールがなくても、まずは手元の管理画面を眺めるところから始められます。
予算をかけずに始められるという点は、リソースの限られたチームにとって心強い材料のはずです。
検索窓の外側で意思決定が進む時代になっても、最終的に訪問者はサイトに来て、ページを見て、何かしらの行動を取ります。そこから先の計測は、これまでとなにも変わりません。
変わったのは入口の見え方だけであり、見えにくくなった入口をどう可視化するかという、地道な運用の話に尽きるのです。大がかりな体制変更よりも先に、まずは今の分類ルールを疑ってみることのほうが、費用対効果が高いはずです。
まずは自社の直接流入の一覧を開き、見覚えのないホスト名が混じっていないか、今日のうちに眺めてみてはどうでしょうか。