ECサイトの数字を眺めていて、カートには商品が入っているのに注文が伸びない、ともやっとしたことはありませんか。
商品を選んで、カートに入れるところまでは進んだ。なのに購入されずに終わる。
これがカゴ落ち、英語でカート放棄(cart abandonment)と呼ばれる現象です。
やっかいなのは、カゴ落ちした人が買う気のなかった人ではないところ。むしろ買う気があったのに、途中で気持ちが折れた人です。
だからこそ伸びしろが大きい。この記事では、数え方の整理から原因の切り分け、段ごとの打ち手、効果の確かめ方までを順に見ていきます。
カゴ落ち率を正しく数えるところから
最初に定義をそろえます。ここが曖昧なままだと、せっかく改善しても効果があったのか分からなくなります。
カゴ落ち率は、カートに商品を入れた人のうち、購入まで至らなかった人の割合です。式にすると次のようになります。
カゴ落ち率 = ( 1 - 購入完了数 ÷ カート追加数 ) × 100
例: カート追加 1,000 / 購入完了 280
1 - 280 ÷ 1,000 = 0.72 → カゴ落ち率 72%
シンプルな式です。ただ、この分母と分子の数え方で結果が大きくぶれます。
回数ではなく人(セッション)で数える
最初のつまずきがここです。カート追加ボタンは、同じ人が何度でも押せてしまいます。
サイズを迷って3回入れ直した人を回数で数えると、3人ぶんに膨らみます。分母だけが太り、カゴ落ち率は実態より悪く見えます。
ですからセッション単位、または訪問者単位で数えるのが基本です。1回の訪問の中で何回カートを触っても、カート追加は1とカウントする、という考え方ですね。
業界平均と比べても、あまり意味はない
カゴ落ち率は70%前後、という数字をよく見かけます。ただ、こうした調査は対象も期間も定義もばらばらで、そのまま自社に当てはめられるものではありません。
高額商品なら検討期間が長く、カゴ落ちは自然と増えます。逆に日用品の定期購入なら低く出ます。
比べる相手は他社ではありません。先月の自分です。
なぜ人はカートを捨てるのか
原因は無数にあるように見えて、実際には数パターンに収束します。ひとつずつ見ていきましょう。
いちばん多いのが想定外の費用です。商品ページでは3,980円だと思っていたのに、最終確認画面で送料と決済手数料が乗って4,700円になる。
金額そのものより、後から出てきたことに気持ちが冷めます。心当たり、ありませんか。
次に多いのが会員登録の強制です。一度買いたいだけの人に、パスワードを考えさせて、確認メールを開かせる。
買いたいだけの人から見れば、これはかなり重い寄り道に映ります。
三つ目は入力の面倒くささ。住所を手で全部打たせる、電話番号のハイフンでエラーになる、エラーが出た瞬間に入力内容が消える。
四つ目は不安です。ちゃんと届くのか、返品できるのか、このサイトにカード番号を渡して大丈夫なのか。
そして五つ目、そもそも今すぐ買う気がなかった。気になる商品の置き場としてカートを使う人は、思っているより多いのです。
この五つ目があるので、カゴ落ちをゼロにはできません。目指すのは撲滅ではなく、理由のある離脱だけを残すことだと考えてください。
推測で止めず、本人に聞く
五つのうちどれが自社で効いているのか。データだけ眺めていても、なかなか確信は持てません。
そこで、カート画面や情報入力画面に短い質問をひとつ置く方法があります。購入をやめようとした理由を、選択肢3つか4つで尋ねるだけ。
答えてくれるのはごく一部です。それでも十分に価値があります。
たとえば送料が高いという回答が数十件並ぶだけで、次に直すべき場所が一つに決まるからです。
注意点はひとつ。質問が購入の邪魔をしては本末転倒なので、表示は控えめに、閉じやすくしておいてください。
どの段で落ちているかを特定する
原因の候補が五つあるなら、次はどれが自社で効いているのかを絞る番です。ここで使うのがファネル分析、つまり購入までの道のりを段に分けて人数を数える手法です。
具体的にはカート追加 → 情報入力 → 決済 → 完了の4段に分け、それぞれの到達数を並べます。落ち幅の大きい段が、最初に手を入れる場所の候補になります。
言葉だけだと分かりにくいので、1,000人がカートに入れた場合の数値例を見てみましょう。
| ステップ | 到達数 | 前段からの残存率 |
|---|---|---|
| カート追加 | 1,000 | — |
| 情報入力画面 | 620 | 62% |
| 決済画面 | 480 | 77% |
| 購入完了 | 280 | 58% |
率だけを見ると、最悪なのはカート追加から情報入力への62%です。でも、ここで判断を止めないでください。
実数で見ると、カート追加から情報入力で380人、決済から完了で200人を失っています。失った人数は前者のほうが多い。
一方で、決済画面まで来た人は購入意思がかなり固まっています。そこで4割以上が消えるのは、明らかに何かが壊れているサインです。
つまり残存率の低さと、その段にいる人の意思の強さを掛け合わせて優先順位を決めるわけです。カート追加直後の離脱には迷っているだけの人が混ざりますが、決済画面での離脱にはほぼ混ざりません。
計測を仕込む
各段を測るには、ページの移動だけでなくボタンのクリックも拾う必要があります。カート追加はページを変えずに実行する実装が多いからです。
Strideの場合、計測したいボタンに属性をひとつ足すだけで、そのクリックをファネルの1ステップとして扱えます。
<!-- カート追加: ページが変わらないのでクリックを計測する -->
<button class="btn-cart" data-cv="cart_add">カートに入れる</button>
<!-- 決済へ進むボタンも同様に -->
<button class="btn-next" data-cv="to_payment">お支払いへ進む</button>
<!-- 購入完了は /order/complete への到達をステップにすればよい -->
なおStrideの計測タグはCookieを使いません。同意バナーの有無で数え漏れが起きないので、カート追加から購入完了までの人数を素直に並べられます。
ファネルの組み立て方そのものはファネル分析の基本|離脱ポイントの見つけ方と改善の進め方で詳しく扱っているので、設計から始める方はそちらもどうぞ。
全体平均のまま見ない
ファネルを作ったら、次は絞り込みです。全体の平均だけを見ていると、原因が打ち消し合って何も見えません。
最低でもデバイス別、そして流入元別には分けてください。広告から来た人とメールから来た人では、買う気の強さも、送料に対する反応もまるで違います。
たとえば全体のカゴ落ち率が72%でも、メール経由だけ55%、広告経由だけ80%ということは普通に起きます。平均の裏側に、直すべき相手がいるわけです。
新規とリピートで分けるのも有効です。住所とカード情報がすでに入っている人と、はじめて入力する人とでは、情報入力の段で落ちる理由がまるで違います。
段ごとの打ち手
落ちている段が分かったら、その段に効く手を打ちます。段が違えば原因も違うので、施策の使い回しは効きません。
全体像を先に置いておきます。細かい話はこのあとの各項で補足します。
| 落ちている段 | 疑うべき原因 | まず試すこと |
|---|---|---|
| カート追加後 | 総額の後出し、比較検討 | 送料込み価格の早期表示 |
| 情報入力 | 入力の手間、会員登録 | 項目削減とゲスト購入 |
| 決済 | 手段不足、不安 | 決済手段の追加と情報の露出 |
カート追加のあとで落ちる場合
この段で落ちる人の多くは、まだ買うと決めきれていない状態です。焦らせるより、判断材料を先に渡すほうが効きます。
第一手は総額の早期表示。商品ページかカート画面の時点で、送料と手数料を含んだ金額を出してしまいます。
あと1,200円で送料無料、といった残り金額の提示も有効です。ただしこれは購入単価を動かす施策でもあるので、カゴ落ち率だけでなく客単価と粗利も並べて見るようにしてください。
カート画面そのものを疑う
段ごとの施策とは別に、カート画面の作りが足を引っぱっていることもあります。ここは購入する人全員が必ず通る場所なので、小さな不便でも失う人数は大きくなります。
見るべきは三点です。商品名と画像とサイズが一目で分かるか、数量の変更と削除がその場でできるか、そして買い物を続けるための戻り道が用意されているか。
最後の一点が抜けているサイトは意外と多いものです。もう一品足そうとして戻れず、ブラウザの戻るボタンでカートごと失う、という事故が起きます。
情報入力で落ちる場合
ここはほぼフォームの問題です。まず入力項目を数え、いま本当にもらう必要があるものだけを残します。
郵便番号からの住所自動入力、全角と半角の自動変換、そして送信前にその場で出すエラー表示。この3つだけでも体感は変わります。
ゲスト購入も検討したいところです。会員登録は購入完了後に、注文情報を引き継いだ状態で誘えば十分に成立します。
項目の削り方や入力補助の具体策はフォーム最適化(EFO)|入力離脱を減らす7つの工夫に整理しています。
決済で落ちる場合
ここまで来て落ちるのは、支払い手段が足りないか、不安が残っているかのどちらかがほとんどです。
まず手段。主要なクレジットカード、コンビニ払い、キャリア決済、後払い、スマホ決済のうち、自社の客層に合うものが欠けていないかを確認します。
不安への対処は、情報を隠さないことに尽きます。返品条件、配送予定日、問い合わせ先を、決済画面から離れずに読めるようにしておきます。
小さな話ですが、カード番号の入力欄にセキュリティに関する一文を添えるだけでも印象は変わります。何をしているか分からない画面が、いちばん怖いのです。
効果の規模も見積もっておきましょう。決済画面に月1,000人が到達し、購入完了が580人だとします。
ここを58%から63%に上げられれば、月に50件の増加。客単価5,000円なら月25万円、年間で300万円です。
決済手段をひとつ増やす作業に見合うかどうか、この計算をしてから判断すると社内の話も進めやすくなります。改善の話は、率ではなく金額に直すと通りやすいのです。
モバイルで起きていることは別物
デバイス別に数字を分けると、同じサイトとは思えない差が出ることがあります。特にカゴ落ちは、この差が大きく出る領域です。
スマホは画面が狭く、通信も不安定で、キーボードが画面の半分近くを占領します。PCでは気にならない不便が、そのまま離脱になります。
現場でよく見かける詰まりを挙げておきます。どれも派手さはありませんが、確実に人を失う類のものです。
- 固定ヘッダーやチャットボタンが入力欄や送信ボタンを隠す
- 数字だけの項目で英字キーボードが開き、入力に手間がかかる
- エラー箇所が画面外にあり、何が悪いのか分からないまま止まる
- 決済アプリへ移動して戻ってきたら、カートが空になっている
最後のひとつは特に見落とされがちです。外部アプリを経由する決済では、戻ってきたときにカートと入力内容が復元されるかを必ず実機で確かめてください。
こうした詰まりを机上で見つけるのは難しいものです。セッションリプレイのように実際の操作を再現できる機能があると、どこで指が止まったのかが一目で分かります。
なおStrideのリプレイは記録の時点で全テキストを伏せ字にし、入力値と画像は保存しません。住所やカード番号が記録に残る心配なく、詰まりの場所だけを確認できます。
モバイル特有の論点はモバイルのCVRが低い原因と改善|スマホで取りこぼさないにまとめてあります。
直した効果をどう確かめるか
改善したつもりが効いていなかった。これは本当によくあります。
前後比較が当てにならない理由
先月と今月を比べる方法は手軽ですが、当てになりません。理由は主に二つあります。
ひとつは、母数の質が勝手に変わること。セール期間や広告の出稿量が違えば、訪問者の買う気の平均値も違います。
もうひとつは、離脱が別の段に押し出されただけのケース。情報入力を軽くしたら、迷っている人が決済画面まで進むようになり、決済の離脱率が悪化した、という具合です。
段ごとの率だけを追っていると、これを改悪と誤解します。最後の購入完了数まで通して見るのを習慣にしてください。
A/Bテストで並走させる
そこで、同じ期間に旧版と新版を並べて比べます。訪問者をランダムに振り分けるので、季節や広告の影響が両方に等しくかかり、差だけが残ります。
Strideを含む最近のツールなら、コードを書かずに画面上で編集してテストを作れます。カゴ落ちまわりの改善は文言や表示位置の変更が多いので、相性は良いほうです。
判定に必要な件数と期間
ここで迷う方が多いので、目安を書いておきます。カゴ落ち改善は購入完了という下流の指標を動かす施策なので、母数がどうしても小さくなります。
購入完了が週に数十件のサイトでは、数日で差が出たように見えても、それはただの揺れです。最低でも各パターン数百セッション、期間は2週間をひとつの目安にしてください。
そして曜日の偏りを避けるため、必ず週単位で区切ります。平日だけの5日間で判断すると、週末の傾向がまるごと抜け落ちます。
それでも件数が足りないときは、購入完了ではなく決済画面への到達を判定に使う手もあります。下流の段ほど人数は減るので、ひとつ手前の段で当たりをつけ、あとから購入完了で答え合わせをする流れですね。
よくある失敗を三つ
最後に、現場で繰り返し見る失敗を挙げておきます。どれも善意から始まるのがつらいところです。
ひとつ目は、リマインドメールを送りすぎること。カゴ落ちからの追客メールは効果が出やすい施策ですが、頻度を上げると配信停止と迷惑メール報告が増えます。
送るなら3通までが無難です。数時間後に一通、翌日に一通、数日後にもう一通。
そこで反応がなければ、その人はもう買いません。効果を確かめるときも開封率で満足せず、メールから戻ってきた人がどの段まで進んだかをメールマーケの効果測定の考え方で追ってください。
ふたつ目は、割引で押し切ること。カゴ落ちしたら10%オフ、を続けると、待てば安くなると学習されるだけです。
みっつ目は、施策を同時に5つ入れること。数字が動いても何が効いたか分からず、次の一手が打てなくなります。
まとめ
カゴ落ちは、あと一歩のところでの離脱です。だから直せば効きます。
進め方はいつも同じ。4段のファネルで落ちている場所を特定し、費用・登録・入力・不安のどれが原因かを当て、ひとつずつ直してA/Bテストで確かめる。
そして数字は率と実数の両方で見ること。率が悪い段と、人数を失っている段は、しばしば別の場所にあります。
まずは今月のカート追加数と購入完了数を並べるところから始めてみてください。そこに、次に手を入れるべき場所が写っています。