リテンション解約PM

リテンションと解約|継続率を上げるために見る数字

2026年07月30日 ・ Stride

先月の新規登録は過去最高でした。それなのに、利用者の総数はほとんど増えていない。

心当たりはありませんか。バケツに注ぐ水を増やしても、底の穴が同じ大きさなら、水位は上がりません。

リテンション、つまり使い続けてもらえているかどうかは、新規獲得の成果を丸ごと打ち消すこともあれば、何倍にもすることもあります。

この記事では、継続率をどう並べて見るか、解約の予兆をどこから読むか、打ち手をどう選ぶかを順番に整理します。教科書的な定義よりも、明日の定例で使える形を優先します。

継続と解約は、同じ現象を裏返しに見ているだけ

リテンションは、ある時期に使い始めた人のうち、その後も使い続けている人の割合です。解約率(チャーンレート)はその裏返しで、一定期間に離れていった人の割合を指します。

裏表なので、片方が決まればもう片方も決まる。そう思いたくなりますが、実際は定義が揃っていないと両者は足して100%になりません

無料プランの休眠を解約に数えるかどうか、一度離れて戻ってきた人をどう扱うか。この扱いが人によって違うまま議論が始まると、数字は増えるのに話は前に進みません。

まず、アクティブの定義をひとつに決める

使い続けているとは、具体的に何をした状態でしょうか。ここを決めないと、その先の計算はすべて砂の上に建ちます。

判断の軸はシンプルで、そのプロダクトの価値がいちばん濃く現れる行動を一つ選ぶことです。

タスク管理ならタスクを1件以上作った状態。請求ツールなら請求書を1通発行した状態。

ログインしただけを継続に数えると、数字は綺麗になりますが、改善は一歩も進みません。

どの行動を代表指標に据えるかの考え方は、プロダクト指標の設計|北極星指標とKPIツリーの作り方で詳しく扱っています。

頻度は、プロダクトの自然な使用間隔に合わせる

毎日開くツールなら日次、月次の業務を支えるツールなら月次で数えます。週1回しか使われない性質のものを日次アクティブで測ると、健全な状態が不健全に見えてしまいます。

迷ったら、その業務が現場で何日おきに発生しているかを聞いてみてください。指標の周期は、プロダクトの都合ではなく業務の周期に合わせるものです。

数え方は3種類ある

継続の数え方には代表的なものが3つあります。同じサービスに当てはめても値がまるで変わるので、どれを採用したのかは最初に決めておきます。

数え方 測っているもの 向いている場面
N日後リテンション 登録からちょうどN日目に使ったか 毎日使う前提のプロダクト
期間内リテンション N日目までのどこかで一度でも使ったか 週次や月次で使うプロダクト
課金継続 料金を払い続けているか 契約が年単位で動く法人向け

月1回の業務を支えるツールに30日後リテンションを当てると、たまたまその日に開かなかった人が全員脱落した扱いになります。数字が低いのではなく、物差しが合っていないだけという状況は本当によく起きます。

法人向けでは、使われていないのに契約だけ続いている状態もあります。課金継続だけを見ていると、更新の直前になって初めて危険に気づくことになります。

継続率はコホートで見る

全体の継続率をひとつの折れ線で見ていると、大事な変化が見えません。新規が増えれば分母が入れ替わり、古い顧客の劣化が薄まって隠れてしまうからです。

そこで使うのがコホートです。コホートとは、同じ時期に使い始めた人をひとまとまりのグループとして扱う考え方を指します。

登録した月ごとに人を束ね、その後の継続率を横に並べる。毎月400〜500人が登録しているサービスなら、たとえばこんな表になります。

登録月 1か月後 2か月後 3か月後
2月 62% 48% 41%
3月 64% 50% 44%
4月 58% 42%
5月 71% 57%

各行の数字は、その月に登録した人のうち、何か月か後もアクティブだった割合です。右下が空欄なのは、まだその月数が経っていないからです。

この表は、二方向に読みます。横に読むと一つのグループがどう減っていくかの曲線、縦に読むと月ごとの出来不出来の比較です。

読むべき点を絞ると、こうなります。

  • 1か月後の落差の大きさ(最初の体験がうまくいっているか)
  • 曲線が平らになる位置と、その高さ(本当に定着した人の比率)
  • 縦に並べた同じ列の増減(施策や集客チャネルの変化が効いたか)

4月は1か月後が58%まで落ちています。この月に何をしたか、どこから人を集めたかを思い出せるうちに確かめておくべきサインです。

束ね方でも迷いますよね。1つのコホートが50人を下回ると、1人の増減が2ポイント動くので、週ごとではなく月ごとに束ねたほうが読めます。

逆に月1,000人規模なら、週コホートにしたほうが施策との対応がつけやすい。人数が少ないほど期間を長く束ねる、と覚えておけば大きく外しません。

曲線が平らにならないなら、まだ定着していない

健全なプロダクトのカーブは、最初に大きく落ちたあと、どこかで下げ止まって水平に近づきます。この平らな部分が、価値を実感して習慣に組み込んだ人たちです。

逆に、何か月経っても下がり続けるカーブは、定着層が存在しないことを意味します。この状態で広告費を増やしても、穴の空いたバケツに水を足しているだけになります。

ここで機能追加に走りたくなりますよね。でも先にやることは、平らになっている数少ないコホートが誰なのかを特定することです。

集客の質が違えば、カーブの形も違う

同じプロダクトでも、キャンペーンで集めた人と、検索で課題を調べて来た人では、残り方がまったく違います。コホートを流入元で分けて見ると、この差ははっきり出ます。

Strideはウェブサイト側の計測ツールなので、登録前にどこから来て、どのページを見て、いつ再訪したかまではセッションをまたいで追えます。一方で、ログイン後のプロダクト内で何をしたかは対象外です。

そこはプロダクト分析ツールやアプリ側のイベントログの担当領域になります。両方を無理に一つのツールで賄おうとすると、どちらも中途半端になりがちです。

数字は、分解しないと打ち手にならない

解約率が7%でした、と報告されても、次の行動は決まりません。分解して初めて、どこを直すかが見えてきます。

具体的な数字で考えてみます。月初の契約数が1,200、当月の解約が84件なら、月次解約率は84÷1,200で7.0%です。

ここから平均継続期間を1÷0.07で約14か月と見積もることがあります。ただしこれは解約率が毎月一定という前提の目安で、実際は初期ほど解約が高いため、たいてい過大評価になります。

もっと使えるのは内訳です。84件のうち、登録3か月以内が52件、それ以降が32件だったとします。

この時点で、問題の6割は初期の定着にあると分かります。ベテラン顧客向けの機能追加より、最初の30日を直すほうが先です。

平均の裏側は、セグメントで割ると見えてくる

期間で割ったら、次は顧客の性質で割ります。全体の解約率は、まったく違う事情を抱えた人たちを平らにならした平均値でしかないからです。

よく効く切り口は、契約プラン、企業や事業の規模、そして登録時の流入元の3つ。同じ7%でも、片方が3%でもう片方が15%なら、打つべき手はまったく別のものになります。

ただし、切りすぎには注意してください。3つ以上の軸を掛け合わせると各マスの人数が一桁になり、偶然の揺れを法則だと読み違えることが起こります。

顧客数だけでなく、金額でも見る

法人向けのプロダクトでは、契約は続いているのに席数が減る、いわゆるダウングレードが起きます。顧客数のチャーンだけを見ていると、この目減りは完全に見落とされます。

そこで金額ベースの継続も並べます。期首の月額売上が800万円、解約で40万円、ダウングレードで15万円減り、既存顧客の増額で75万円増えたとすると、(800−40−15+75)÷800で102.5%です。

顧客数は減っているのに金額は増えている、という状態は実際によく起きます。どちらか片方だけを健全性の指標にしないでください。

意図しない解約を先に潰す

解約には、本人が判断した自発的なものと、決済の失敗で自動的に切れてしまう非自発的なものがあります。カードの有効期限切れや限度額超過は、プロダクトへの評価とは何の関係もありません。

ここが解約の1割を占めているなら、再試行の仕組みと期限前の通知だけで、その多くは戻せます。機能開発の議論に入る前に、この取りこぼしの量を確かめておく価値は十分にあります。

解約は、起きたあとではなく予兆で見る

解約ボタンが押された時点では、たいてい手遅れです。心はその数週間前に離れています。

だからPMが見るべきなのは、解約そのものよりも、その手前で起きている行動の変化です。代表的なものを整理します。

予兆 疑うこと 確かめる場所
週次の利用が2週続けてゼロ 業務に組み込まれていない プロダクト内のイベントログ
中心機能を一度も使っていない 初期設定でつまずいた 機能別の利用率
料金・解約ページの再訪が増えた 他社比較、値上げへの反応 ウェブ側のページ別アクセス
問い合わせが増えた直後に沈黙 諦めて別の手段に移った 問い合わせ履歴と利用ログ

上の2つはプロダクトの中の話なので、サイト計測では追えません。3つ目のようにウェブサイト上で起きる動きなら、Strideのようなサイト計測ツールでも、匿名IDのまま再訪や閲覧ページの変化として見ることができます。

どの機能が最初の30日で使われずに終わっているかは、作った機能が使われない|機能の定着率を測って直すの考え方が使えます。

理由は本人に聞く。ただし聞き方に気をつける

行動ログは何が起きたかを教えてくれますが、なぜかまでは教えてくれません。そこで解約時のアンケートが効いてきます。

選択肢だけを並べると、価格が高いという回答に票が集まりがちです。価格の不満は、多くの場合その値段に見合う価値を感じられなかったという意味で、値下げの根拠にはなりません。

だから自由記述をひとつだけ添えます。何ができれば使い続けられたと思いますか、という一文が、いちばん多くを引き出します。

満足度をふだんから定点で測っておく方法はNPS(顧客推奨度)とは|測り方と改善への活かし方にまとめてあります。解約後に聞くより、まだ使っている段階で兆しを拾うほうが、打ち手の選択肢は多く残ります。

打ち手は、カーブのどこに効くかで選ぶ

改善案は無限に出てきます。優先順位を決める軸は、曲線のどの区間に効く施策なのかという一点に置くと迷いにくくなります。

初期に効く施策のレバレッジは、直感より大きい。母数が最大の区間で、しかもその後の全期間に波及するからです。

数字で確かめます。1か月後の継続を58%から65%に引き上げ、以降の減り方が同じ形だとすると、3か月後は41%相当から46%相当に動きます。

月500人が登録するなら、3か月後に残っている人が205人から230人へ。毎月25人ずつ積み上がる差になります。

最初の体験そのものをどう設計するかはオンボーディング改善|最初の体験で離脱させない設計が詳しいので、初期区間に手を入れると決めたら合わせて読んでみてください。

休眠からの復帰は、狙いすぎない

離れた人を呼び戻す施策は、費用対効果が読みにくい領域です。一度価値を感じられなかった相手に、同じ理由でもう一度来てもらうのは簡単ではありません。

現実的なのは、止まった理由が外部にあった層に絞ることです。担当者の異動、繁忙期、予算の期ズレ。

この層は機能が足りなかったわけではないので、事情が変われば戻ってきます。

不満で辞めた人と、事情で止まった人を同じ施策で扱わない。ここを分けるだけで、復帰施策の打率はかなり変わります。

RICEやICEで並べるときの落とし穴

施策の優先順位づけには、影響度と確度と工数でスコア化する手法がよく使われます。便利ですが、リテンション施策とは相性の悪い点がひとつあります。

効果が出るまでに時間がかかることです。今月打った施策の継続率への影響は、3か月後のコホートが揃うまで確かめられません。

四半期でスコアを回すと、遅れて効く施策は毎回負けます。だから初期定着の施策には、初週の中心機能到達率のような中間指標を置いて、短い周期で判断できるようにしておきます。

変えるのは、一度にひとつ

効果の確認に時間がかかる指標には、もうひとつ気をつけたい点があります。同じ月にオンボーディングとメール文面と価格ページをまとめて変えると、コホートが揃ったときに何が効いたのか分からなくなります。

急ぎたい気持ちは分かりますが、原因を特定できない改善は次に再現できません。次のコホートで検証できる粒度まで変更を小さく割るほうが、遠回りに見えて結局は速く進みます。

進め方の順番

やることは多く見えますが、順番は決まっています。この順で進めれば、途中で議論が散らかりにくくなります。

  1. アクティブの定義を一つに決め、文章にして共有する
  2. 登録月ごとのコホートで継続率を並べる
  3. 落差がいちばん大きい区間を特定する
  4. その区間で離れた人を数人、行動と声の両面から見る
  5. 打ち手を一つに絞り、次のコホートで動いたかを確かめる

4番目を飛ばして施策の議論から始めるチームが本当に多い。数人分の生の経路を見るだけで、会議の空気は変わります。

フレームワークが効かない場面もあります

コホートも解約率も万能ではありません。むしろ、当てはまらない場面を知っているほうが、数字を持ち出す説得力は増します。

まず、解約が構造的に正しい場合。確定申告の時期だけ使うツールや、プロジェクトの終了とともに役目を終えるサービスでは、離脱は失敗ではありません。

次に、母数が小さい場合。月に20社しか契約がないなら、1社の解約が5%として跳ね返ります。

この規模では比率で語らず、実数と個別の事情で語るほうが、判断を誤りません。

無料プランがある場合も注意が必要です。無料の休眠はサーバー費用として効いても売上には響かないので、有料の解約と同じ表に混ぜると危機感が的外れになります。

無料と有料は、別のコホートとして並べてください。混ぜた瞬間に、その表から意思決定はできなくなります

そして、価格改定やキャンペーンの直後。外部要因で歪んだ月のコホートを、通常月と同じ物差しで比べても意味がありません

何があった月かを、表の脇にメモしておいてください。

チームで同じ数字を見るために

定例のたびに継続率の値が違う。よくある事故ですが、原因はたいてい計算式ではなく定義の揺れです。

アクティブの条件、対象プラン、集計の締め日。この3つを1ページに書いて、ダッシュボードの近くに置いておくだけで、議論の空転はかなり減ります。

最後に、責任範囲の話をひとつ。解約率という一つの数字を全員で持つと、誰も動けなくなります。

PMは最初の30日の定着を持ち、その先の関係維持はカスタマーサクセスが持つ。この分け方が、いちばん現実的に回りやすい形です。

数字は、責任の所在がはっきりして初めて動き始めます。

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