アクセス解析の数字は、サイトで何が起きたかを教えてくれます。ただ、なぜそうなったのかまでは教えてくれません。
申し込みが減った、解約が増えた。変化には気づけても、その裏にある気持ちまでは見えないですよね。
そこを埋めるための指標がNPSです。この記事では、計算のしかただけでなく、実際に運用するときの設計と、集まった声を改善に変えるところまで書いていきます。
NPSとは、結局なにを測っている指標なのか
NPS(Net Promoter Score、ネットプロモータースコア)は、日本語では顧客推奨度と訳されます。たったひとつの質問で、顧客がサービスにどれくらい愛着を持っているかを数値にする仕組みです。
質問文はこれだけです。このサービスを友人や同僚にすすめる可能性はどのくらいありますかと聞いて、0から10の11段階で答えてもらいます。
なぜ、すすめたいかを聞くのか
満足していますかと聞くと、人はわりと甘い点をつけます。特に不満はなかったという程度でも、満足に丸をつけてしまうからです。
ところが、人にすすめるとなると話が変わります。すすめた相手ががっかりしたら、自分の評判にも傷がつくわけです。
つまりこの質問は、回答者に小さなリスクを背負わせています。だから本音が出やすいというのが、NPSが長く使われている理由です。
回答を3つのグループに束ねる
集まった点数は、そのまま平均を出すのではありません。次の3グループに分けてから計算します。
| グループ | 点数 | どんな状態か | 計算での扱い |
|---|---|---|---|
| 推奨者 | 9〜10 | 進んで人にすすめてくれる | プラス側で数える |
| 中立者 | 7〜8 | 悪くはないが熱はない | 数えない |
| 批判者 | 0〜6 | 不満や失望を抱えている | マイナス側で数える |
6点が批判者に入るのは、初めて見ると厳しすぎるように感じます。ここは意図的な設計です。
10段階のテストで6点は合格だと感じますが、人にすすめるかと聞かれたらまず勧めません。すすめる気があるかどうかという基準で線を引くと、この位置になるわけです。
計算方法を、実際の数字でやってみる
計算式そのものはとても簡単です。推奨者の割合から批判者の割合を引く、それだけです。
200人から回答が集まった場合で計算してみます。内訳は9〜10点が70人、7〜8点が80人、0〜6点が50人だったとしましょう。
回答数: 200件
推奨者(9-10点) 70人 → 70 / 200 = 35%
中立者(7-8点) 80人 → 80 / 200 = 40%
批判者(0-6点) 50人 → 50 / 200 = 25%
NPS = 35 - 25 = +10
答えはプラス10です。単位はパーセントではなく、ただのポイントとして扱います。
中立者が消えることの意味
気づいた方もいるかもしれません。40%を占める中立者の80人は、スコアにまったく影響していないのです。
これは欠陥ではなく、割り切りです。どちらでもない層は、事業の成長にも足を引っ張るほうにも効かないという前提でできています。
実務的には、この構造が打ち手の選び方に効いてきます。批判者をひとり中立者に引き上げても、中立者をひとり推奨者に押し上げても、スコアの動き幅は同じだからです。
つまりNPSの数字だけでは、不満の解消と満足の上積みのどちらを優先すべきかは決まりません。そこは事業の状況で判断することになります。
理論上の範囲はマイナス100からプラス100までです。全員が10点をつければプラス100、全員が6点以下ならマイナス100になります。
平均点で見てはいけない理由
そもそも、なぜ平均点ではダメなのでしょうか。数字を並べると一目で分かります。
平均点が同じ5.0になる2つのサービスを考えてみます。片方は10点と0点がちょうど半々、もう片方は全員が5点をつけた場合です。
前者のNPSは、推奨者50%から批判者50%を引いてゼロです。後者は推奨者がひとりもいないので、マイナス100になります。
前者には熱狂的なファンが半分いて、後者にはひとりもいません。平均点は、この決定的な違いをきれいに消してしまうわけです。
NPSは分布の形を見るための指標です。平均に丸めた瞬間に、その良さは失われます。
スコアの目安と、比較するときの落とし穴
数字が出ると、次に知りたくなるのは良いのか悪いのかですよね。実はここが、NPSで一番あてにならない部分です。
業種と国で、出る水準がまるで違う
熱量の高いファンがつきやすいジャンルは高く出ます。逆に、他に選択肢がなくて仕方なく使っているサービスは、品質と関係なく低く出ます。
さらに日本では、欧米よりも点数が低く出る傾向があるとよく指摘されます。5段階評価で真ん中を選びがちな回答のクセが、11段階でも同じように働くためです。
ですから、どこかで見た業界平均と自社の数字を並べても、判断材料にはなりません。マイナスだから危機的、とも言い切れないのです。
見るべきは絶対値ではなく変化
実務で本当に使えるのは、同じ聞き方で、同じような相手に、定期的に聞いた数字の推移です。
先月マイナス5、今月プラス3。この8ポイントの動きのほうが、業界平均との差よりずっと多くを語ります。
そして推移を追うと決めたら、途中で聞き方を変えてはいけません。質問文も、選択肢の並びも、表示するタイミングも、対象者も、ひとつでも変えた回は前回と比較できなくなります。
何件集まれば信じてよいか
回答が20件や30件しかないと、数人の気分でスコアが10ポイント以上動きます。これで施策の成否を語ると、確実に判断を誤ります。
ざっくりした目安として、月次や四半期で推移を追うなら100件以上は欲しいところです。年代別や流入元別に分けて見たいなら、各グループで100件と考えてください。
件数が集まらないうちは、スコアの上下を追いかけるのはやめましょう。自由記述だけを読む運用に切り替えたほうが、よほど学びがあります。
全体の数字より、分けた数字
件数が十分に集まってきたら、全体のスコアを眺めるより、切り口を決めて分けたほうが発見があります。よくある切り口は、流入元、デバイス、利用期間の3つです。
たとえば全体はプラス10でも、スマートフォンからの回答だけマイナス20ということは普通に起こります。この場合に直すべきなのは、サービスの中身ではなく画面の使い勝手です。
Strideは流入元やデバイス、国ごとのアクセスの内訳を標準で持っているので、スコアが低いセグメントの行動をそのまま追いかけられます。デバイス差が疑わしいときの調べ方は モバイルのCVRが低い原因と改善|スマホで取りこぼさない にまとめました。
誰に、いつ聞くか。設計でほぼ決まる
NPSの質は計算式ではなく、聞き方で決まります。ここを雑にすると、いくら回答が集まっても意味のない数字になります。
まず、聞くタイミングには大きく3つのパターンがあります。それぞれ向き不向きがはっきりしています。
| 聞き方 | 向いている用途 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 定期的にメール配信 | 全体の健康度の推移 | 対象を固定しないと比較不能 |
| 体験の直後に聞く | その体験そのものの評価 | 直後の感情に振れやすい |
| サイト上に表示 | 継続的に薄く集める | 出しすぎると邪魔になる |
初めて導入するなら、四半期に1回の定期測定から始めるのが無難です。サイト上での常時収集は、コメントを集める用途として併用すると相性が良いです。
使ったことのない人には聞かない
サイトを開いて10秒の人に、すすめたいですかと聞いても答えようがありません。それでも押された数字は、ただのノイズです。
対象はある程度サービスに触れた人に絞ります。判断の基準としては、次のあたりが実用的です。
- 購入や申し込みを完了している
- 3回以上訪問している、または利用開始から2週間以上たっている
- 管理画面や主要な機能ページを見ている
Strideのアンケート機能では、表示するページ、出すタイミング、再表示の頻度を指定できます。購入完了ページを見た人にだけ出す、といった出し分けが設定だけで組めます。
自由記述を必ずセットにする
ここが一番大事なところです。0から10の数字だけでは、改善の手がかりはほとんど得られません。
点数のすぐ後ろに、その理由を1問だけ添えてください。任意回答にしておけば、全体の回答率をあまり下げずに声が集まります。
さらに効果を上げたいなら、点数によって質問文を変えます。同じ質問を全員に投げるより、明らかに中身の濃い回答が返ってきます。
【改善前】全員に同じ質問
ご意見・ご感想をご自由にお書きください
→ 特にありません、という回答が半分近くを占める
【改善後】点数で質問文を出し分ける
9〜10点の人 → どんなところを気に入っていただけましたか
7〜8点の人 → あと一歩、何があれば満点に近づきますか
0〜6点の人 → どこが改善されると、もっと使いやすくなりますか
→ 具体的な画面名や操作名が書かれた回答が増える
減点の理由を聞かれると、人は具体的に書きます。褒めるときより、不満のほうが言葉になりやすいからです。
回答率が低いときに疑うこと
聞き方によって回答率は大きく変わります。メールで依頼するより、使っている最中のサイト上に出したほうが答えてもらいやすい傾向があります。
思ったより集まらないときは、まず設問の数を疑ってください。NPSにあれこれ質問をくっつけると、回答率は目に見えて落ちます。
原則は、点数1問と理由1問の合計2問だけです。これ以上増やすなら、増やした分だけ回答が減ることを織り込んで決めます。
集まった声を、改善につなげる
スコアを算出して報告して終わり。NPSで最も多い失敗がこれで、ここからが本番だと考えてください。
まずは批判者のコメントを全部読む
カテゴリ分類や件数集計の前に、生のコメントを最初から最後まで読みます。100件程度なら1時間かかりません。
読むと、数字からは絶対に出てこない言い回しに出会います。使い方が分からない、他社より高い気がする、スマホだと押しにくい。
この生々しい言葉が、改善の種になります。先に分類してしまうと、この質感は消えてしまうのです。
分類は、機能名ではなく困りごとで
ひととおり読み終えたら、似た指摘をまとめていきます。ここで機能名や画面名ごとに分けたくなりますが、あまりおすすめしません。
分けるべきなのは、困りごとの種類です。分からない、面倒、高い、期待と違った。
この4つに寄せるだけでも、次の打ち手はかなり絞れます。分からないなら説明の問題、面倒なら導線やフォームの問題、高いなら価値の伝え方の問題です。
困りごとの分類が、そのまま改善の担当領域に対応します。担当が決まらない分類は、たいてい切り口を間違えています。
声とアクセス解析を突き合わせる
コメントは主観です。全体に共通する問題なのか、その人固有の事情なのかは、行動データで裏を取る必要があります。
たとえば、スマホだと申し込みが面倒というコメントが3件あったとします。次に見るのは、モバイルとPCのファネル通過率の差です。
そこで明確な差が出ていれば、3件のコメントは全体の問題を言い当てていたことになります。差がなければ、優先度は下げて構いません。
導線のどこで人が抜けているかを見る手順は ファネル分析の基本|離脱ポイントの見つけ方と改善の進め方 にまとめてあります。
回答者ひとりの行動をたどる
低い点数をつけた人が、その前後にサイトで何をしていたか。ここまで見えると、原因の解像度が一段上がります。
Strideではアンケートの回答者からN1分析に飛べるので、コメントと実際の操作を並べて確認できます。氏名やメールアドレスは取得しない設計なので、見えるのは行動だけです。
ひとりの行動履歴から仮説を立てる進め方は N1分析とは|一人の行動から改善のヒントを得る で詳しく解説しています。
推奨者の声は、そのまま言葉の素材になる
批判者ばかりに目が行きますが、9点や10点をつけた人のコメントも同じくらい使えます。そこには、その人が価値だと感じている部分が、その人の言葉で書かれているからです。
自社で考えたキャッチコピーより、顧客が実際に使った表現のほうが刺さることは珍しくありません。LPの見出しや説明文の候補として、そのまま持ってくる価値があります。
もちろん、効くかどうかは出してみないと分かりません。候補が複数あるなら、A/Bテストで比べてしまうのが早いです。
打ち手を仮説の形にする
読んで納得して終わらせないために、改善案は必ず仮説の形にします。何が原因で、どこを変えると、どの数字が動くはずか。
そして変更したら、効果を測ります。ただしNPSは動きの遅い指標なので、短期の効果測定には向きません。
数週間単位で見るなら、CVRやフォームの通過率といった行動の数字のほうが向いています。NPSは半年から1年の目線で、全体の方向を確認する道具だと考えてください。
具体的な改善の切り口は コンバージョン率(CVR)を上げる7つの視点 にまとめてあります。
運用でよくあるつまずき
最後に、現場で実際によく起きる失敗を挙げておきます。どれも一度はやってしまうものばかりです。
スコアを目標管理に使ってしまう
NPSを担当者の評価指標にすると、点数を上げるための小細工が始まります。機嫌の良さそうな顧客にだけ聞く、高評価をお願いする、荒れそうな時期を避ける。
こうすればスコアは動きますが、実態は何も変わりません。NPSは診断の道具であって、成績表ではないのです。
聞きすぎて嫌われる
同じ人に何度も表示するのは、それ自体が体験を悪くします。回答済みの人には一定期間出さない、閉じた人にも間隔を空ける。
この2つは最初に設定しておきましょう。アンケートが原因で点数が下がるのは、さすがに本末転倒ですよね。
回答者は、そもそも偏っている
ポップアップに答えてくれるのは、関心を持ってくれている人です。もう見限った人の声は、まず集まりません。
つまりNPSの数字は、実態よりやや良く出ます。この前提を共有しておくと、社内で数字を説明するときにも誠実でいられます。
うっかり個人情報を集めてしまう
自由記述に氏名や連絡先を書いてもらうと、その瞬間から個人情報の管理義務が発生します。取り扱いの考え方は 個人情報保護委員会 の資料が一次情報として参考になります。
返信が必要な用途なら、匿名アンケートとは分けて問い合わせフォームとして設計するほうが安全です。匿名で集めるなら匿名に徹する、この線引きは始める前に決めておいてください。
結果が現場に届かない
集めた部署だけが結果を抱えていると、改善は進みません。コメントは、実際にページや機能をつくる人が読んで初めて力を持ちます。
月に一度、印象に残った声を5件そのまま共有するだけでも十分です。よくできた集計表よりも、生の一文のほうが人を動かします。
まとめ
NPSは、数字と声をつなぐ指標です。アクセス解析が示す何が起きたかに、なぜという文脈を足してくれます。
覚えておくとよいのは3つです。他社との比較ではなく自社の推移を見ること、必ず自由記述をセットにすること、そして読んだ声を行動データで裏づけてから動くこと。
スコアを上げること自体は目的ではありません。使ってくれている人が何を感じているかを知り、そこから次の一手を決める入口として使えば、NPSはとても実用的な道具になります。