来月の投資判断の会議で、PMFは取れていますかと聞かれる。そのときに、手応えはあります、としか答えられない。
心当たりはありませんか。PMFという言葉は驚くほど広く使われているのに、測り方の話になると急に曖昧になります。
PMF(プロダクトマーケットフィット)は、作ったものが市場に受け入れられている状態を指します。ここまでは誰でも言えます。
問題は、その状態に入ったかどうかを何の数字で判断するのかです。この記事では、実際にPMを担当している人が明日の定例で使える形に絞って、判定のしかたを整理します。
PMFは、到達する一点ではなく、続いている状態
まず前提をひとつ。PMFはゴールテープではありません。
ある日を境に達成したと宣言できるものではなく、満たされ続けているか、崩れ始めていないかを定期的に確かめる状態だと考えてください。市場が動けば、同じプロダクトのままでもフィットは外れます。
だから測り方の設計は、一発勝負のテストではなく定点観測として組みます。ここを間違えると、一度良い数字が出た瞬間に測るのをやめてしまいます。
売上が伸びていることは、証拠になりません
いちばん多い誤解がこれです。今月も新規登録が過去最高でした、だからPMFは取れています、という主張。
広告費を積めば新規は伸びます。値引きやキャンペーンでも同じように伸びます。
つまり入り口の数字は、お金で買えるわけです。買える数字を、市場に受け入れられている証拠として使うことはできません。
PMFの本質は、いったん手に入れた人が離れないことと、頼まれてもいないのに人に伝えることの2点にあります。獲得の数字ではなく、獲得した後に起きることを見てください。
感覚を数字にするために、3つの角度を使う
ひとつの指標でPMFを判定しようとすると、必ずどこかで無理が出ます。実務では次の3つを並べて見るのが現実的です。
| 見る角度 | 具体的な測り方 | 判断できること |
|---|---|---|
| なくなったら困るか | 40%ルールのアンケート | 代替が効かない存在か |
| 使い続けているか | リテンションカーブの平坦部 | 習慣に入り込めたか |
| 勝手に広がるか | 口コミ・自然流入の比率 | 市場が押し返しているか |
3つのうち2つが揃っていれば、かなり自信を持って良い状態です。ひとつだけが良い場合は、たいてい測り方かセグメントの取り方に問題があります。
40%ルールを、正しく使う
もっとも広く使われているのが、ショーン・エリス・テストと呼ばれるアンケートです。質問はひとつだけです。
このプロダクトが明日から使えなくなったら、どう感じますかと聞いて、非常に残念、やや残念、残念ではない、すでに使っていない、の4択で答えてもらいます。非常に残念と答えた人が40%を超えていれば、PMFの目安という使い方をします。
満足していますかと聞かないところが肝です。満足度は甘く出ますが、なくなったら困るかは代替可能性を突きつけるので、本音が出やすくなります。
そして、残りの選択肢を捨てないでください。特にやや残念と答えた層は、あと一歩で非常に残念に移る可能性のある予備軍です。
この層に、あと何があれば手放せなくなりますかと自由記述で聞くと、次に作るものの候補がかなりの精度で出てきます。割合を出すのは判定のため、自由記述を読むのは改善のためと割り切ると、運用が迷いません。
誰に聞くかで、答えは20ポイント動く
このテストで最初に失敗するのは、対象者の設計です。全ユーザーに一斉配信すると、数字はほぼ確実に低く出ます。
登録しただけでまだ価値に触れていない人は、なくなっても何も感じません。彼らの回答は、プロダクトの評価ではなく単なる薄まりです。
対象は、直近2週間以内に中心機能を2回以上使った人あたりが実用的な線です。使い始めたばかりの人と、すでに離れた人は、どちらも別集計にしてください。
逆に、営業が強く勧めて導入した顧客だけに聞くと今度は高く出ます。誰に聞いたのかを1行で書き残しておかないと、次回と比較できなくなります。
Strideのアンケート機能では、表示するページ、出すタイミング、再表示の頻度を指定できます。ウェブサイト上で条件を絞って薄く集め続ける用途なら設定だけで組めますし、聞き方そのものの設計はNPS(顧客推奨度)とは|測り方と改善への活かし方と考え方が共通しています。
何件集まれば信じてよいか
ここは軽視されがちですが、判断を左右します。回答が40件しかない状態で42%という数字を出しても、実質的には何も分かっていません。
割合の誤差は、件数の平方根で効いてきます。具体的に計算してみます。
「非常に残念」の割合を p、回答数を n としたときの95%の振れ幅
誤差 ≒ 1.96 × √( p × (1-p) / n )
p = 0.40, n = 40 → 1.96 × √(0.24/40) = ±15.2pt → 25% 〜 55%
p = 0.40, n = 100 → 1.96 × √(0.24/100) = ± 9.6pt → 30% 〜 50%
p = 0.40, n = 400 → 1.96 × √(0.24/400) = ± 4.8pt → 35% 〜 45%
40件では、25%かもしれないし55%かもしれない。この幅で投資判断をするのは無理があります。
現実的な最低ラインは100件、セグメントごとに分けて見たいなら各セグメントで100件です。集まらないうちは、割合の上下を追うのをやめて、自由記述だけを読む運用に切り替えたほうが学びがあります。
40%という線を、法則だと思わない
この40%は、多くのスタートアップを観察した結果の経験則です。物理法則ではありません。
購入頻度が低い商材や、そもそも代替手段がいくらでもあるカテゴリでは、良いプロダクトでも40%には届きにくい。逆に、乗り換えコストが極端に高い業務システムは、愛されていなくても高く出ます。
ですから、絶対値より推移を見てください。前回32%、今回39%という7ポイントの動きのほうが、40という線をまたいだかどうかより、はるかに多くを語ります。
そして推移を追うと決めたら、質問文も選択肢も対象者の条件も変えないこと。ひとつでも変えた回は、前回と比較できません。
リテンションカーブが平らになるかを見る
アンケートは意見です。行動のほうが嘘をつきません。
PMFの行動面での証拠は、使い始めた人たちの継続率を時間軸に並べたときのカーブの形に出ます。健全なプロダクトは、最初に大きく落ちたあと、どこかで下げ止まって水平に近づきます。
この平らな部分が、価値を実感して習慣に組み込んだ人の割合です。ここが存在しないなら、どれだけ新規を集めてもPMFではありません。
何か月経っても下がり続けるカーブは、定着層がいないことを意味します。この状態で広告を増やすのは、穴の空いたバケツに水を足す行為です。
ここで気をつけたいのが、集計の周期です。月に一度の業務を支えるツールを日次のアクティブで測ると、健全な状態でも壊滅的なカーブが描かれます。
周期は、プロダクトの都合ではなくその業務が現場で何日おきに発生しているかに合わせてください。物差しが合っていないだけなのに、PMFに届いていないと結論づけてしまう事故は本当によく起きます。
コホートの並べ方や解約の分解についてはリテンションと解約|継続率を上げるために見る数字で詳しく扱っているので、実際に表を作る段階になったら合わせて読んでみてください。
平らになる高さは、事業モデルで決まる
よく聞かれるのが、何%で平らになればPMFですかという質問です。残念ながら、共通の合格ラインはありません。
判断の基準は他社比較ではなく、自社の単価と獲得コストで必要な水準が決まるという点にあります。ひとり獲得するのに1万円かかり、月額2,000円で粗利が1,400円なら、8か月分の継続が必要です。
月次のカーブが8か月目に何%残っているかを見て、その水準で事業が回るかを計算する。これが唯一の現実的な判定です。
ここで注意点をひとつ。Strideはウェブサイト側の計測ツールなので、登録前にどこから来て、どのページを見て、いつ再訪したかまではセッションをまたいで追えますが、ログイン後のプロダクト内で何をしたかは対象外です。
プロダクト内の継続率は、プロダクト分析ツールやアプリ側のイベントログの担当領域になります。ウェブ側とプロダクト内を無理に一つのツールで賄おうとすると、どちらも中途半端になりがちです。
全体平均が、PMFをいちばん見えにくくする
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。PMFは全体で来るのではなく、必ずどこかのセグメントで先に来ます。
全体を平均した瞬間に、その先に来た小さな塊は薄まって消えます。28%という全体の数字を見て、まだ届いていないと判断してしまう。
ところが分解してみると、特定の職種では50%を超えていた。数字を平均で持ち歩いているチームほど、この見落としに気づけません。
数字で見たほうが早いので、分解してみます。
「非常に残念」の割合(回答 320件)
全体 28% ← この数字だけ見ると未達
・週次でレポートを作る職種 52% (n=104)
・月に数回だけ触る職種 21% (n=118)
・情報収集で登録しただけ 9% (n= 98)
→ 52%のセグメントに絞れば、そこはPMFの水準
この場合の打ち手は、機能を増やすことではありません。52%のセグメントが誰かを言語化して、集客とオンボーディングをそこに寄せることです。
分ける切り口は、業種や職種、利用目的、組織の規模、そして流入元の4つが定番です。特に流入元は効きます。
広告のキャンペーンで集めた人と、課題を検索して自力でたどり着いた人では、残り方も愛着もまったく違います。Strideは流入元を検索・広告・メール・SNS・外部サイト・直接に自動で分類するので、この切り口で分けるだけならすぐに確かめられます。
流入元を混ぜたまま平均で見ると判断を誤る理由は、流入元の正しい見方|検索・広告・メール・SNSを分けて計測するで詳しく扱っています。
そして強いセグメントを見つけたら、その人たちが実際にどう動いたのかを一人ずつ追ってみてください。手順はN1分析とは|一人の行動から改善のヒントを得るにまとめています。
絞ることへの、社内の反対をどう扱うか
セグメントを絞る提案は、たいてい市場が小さくなると反対されます。ここで揉めますよね。
そのときは、絞るのは今の集客であって、将来の市場ではないと説明してください。強い塊を作ってから隣に広げるほうが、薄く広く戦うより結果的に速い。
説得材料は数字です。全体28%のまま全方位に配信し続けた場合と、52%のセグメントに集中した場合で、3か月後に残る人数を試算して並べると、議論は一気に短くなります。
数字の周りに置く、傍証としての指標
アンケートとリテンションが主役ですが、それだけだと判断が揺れます。周辺の兆候をいくつか並べておくと、確度が上がります。
意識して見ておきたいものを、誤読しやすい点とセットで整理します。
| 傍証 | PMFのシグナル | 誤読しやすい点 |
|---|---|---|
| 指名検索・直接流入の比率 | 自然に増えている | 広告の残り火でも増える |
| 紹介経由の登録 | 頼んでいないのに来る | 紹介報酬があると別物 |
| 解約時の引き止め成功率 | 説明すると戻る | 値引きで戻したものは無効 |
| 問い合わせの中身 | 使い方の相談が増える | 不具合報告の増加とは別 |
上から2つは、市場が押し返してきているかの指標です。押し返しがある状態こそがPMFなので、ここは丁寧に追う価値があります。
意外に効くのが4つ目です。もっとこう使いたい、この場合はどうすればという相談が増えているなら、それは価値を認めた人が深く使い始めた証拠になります。
一方で、これらは単独では判断材料になりません。あくまでアンケートとリテンションの解釈を補強するものとして扱ってください。
明日から始める進め方と、チームでの合意
やることは多く見えますが、順番は決まっています。この順で進めれば、途中で議論が散らかりにくくなります。
- 誰を対象に聞くかを1行で決めて、文章にして共有する
- 40%テストを配信し、回答が100件を超えるまで割合を見ない
- 同じ期間の継続率を、登録月ごとのコホートで並べる
- 両方をセグメント別に割り直し、いちばん高い塊を特定する
- その塊の人を数人選び、行動履歴と自由記述を最後まで読む
- 次の四半期に同じ条件で測り直し、動いたかを確かめる
5番目を飛ばすチームが本当に多い。数人分の生の経路と言葉を見るだけで、会議の空気は変わります。
PMFを、達成か未達かの二値で報告しない
役員会でPMFは取れましたかと聞かれると、はいかいいえで答えたくなります。この二値化が、いちばん判断を狂わせます。
代わりに、セグメントごとに、どの角度が満たされていて、どこが欠けているかを1枚で示してください。報告の形が変わると、次の意思決定も変わります。
そして測ったあとの選択肢を、あらかじめ整理しておくと話が早い。取りうる道は、大きく次の3つに収まります。
- そのまま集客に投資して伸ばす
- 対象とするセグメントを絞り直す
- 提供している価値そのものを作り変える
どの数字がどの選択肢に対応するのかを先に握っておけば、結果が出た日に議論をゼロから始めずに済みます。
この測り方が効かない場面
最後に、当てはまらない状況にも触れておきます。フレームワークは、効かない場面を知っているほうが説得力が増します。
まず、顧客数が極端に少ない法人向けプロダクト。契約が20社しかないなら、アンケートの割合には何の意味もありません。
この規模では、全社にインタビューして、更新の意思と現場の使われ方を個別に確かめるほうが正確です。n=20なら、統計ではなく全数調査が正しい選択になります。
次に、まだプロダクトが存在しない段階。LPと事前登録だけの状態でPMFを測ろうとする例を見かけますが、価値を体験していない人になくなったら困るかは聞けません。
そして、季節性や制度変更の影響が大きいカテゴリ。確定申告の時期だけ使われるツールを平常月の物差しで測っても、実態は見えません。
最後にもうひとつ。PMFは一度取れても失われます。
競合の参入や市場の変化で、同じプロダクトのままフィットが外れることは普通に起きます。去年の40%が今年も40%である保証は、どこにもありません。
だからこそ、四半期に一度は同じ条件で測り直す。良い数字が出た日にダッシュボードを閉じてしまわないことが、いちばん効く習慣かもしれません。